教皇〜お金との向き合い方、狭量な考えからの脱却編〜

タロットカード「教皇」
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ある日の午後、マヤは先生のもとを訪れた。窓から差し込む柔らかな日差しが部屋を照らしているが、彼女の表情はどこか曇っていた。

「先生。なんか最近、先生の考え方がちょっと極端すぎる気がしてきたんですけど…」

とマヤは思い切って口を開いた。

先生は穏やかな微笑みを浮かべながら、

「あら、どういうところが?」と問いかけた。

マヤは少し躊躇しながらも続けた。

「先生、よくおっしゃるじゃないですか。

『資産家はお金を増やすものに使い、貧乏人は消費や浪費に使う』って。

でも、それって普通の人にはかなり厳しい意見だと思うんですよ。」

先生は静かに頷いた。

「厳しいかもしれないけれど、それが現実なのよ。

資産家というのは、持っているお金をさらに増やすために使う。

例えば、株や不動産、ビジネスへの投資、あるいは自己成長のための教育にね。

これらは時間と共に増えていくものよ。」

マヤは眉をひそめて反論した。

「それはわかります。

でも、それって結局お金持ちだけができることですよね?

私たち普通の人にはそんなお金の余裕はないですし、新しい服やバッグを買ったりして、楽しみを見つけることも大事じゃないですか。

お金を増やすために、お金を使えないなんて。

じゃあ、なんのためにお金を増やすんですか?」

先生は少し考え込むように目を伏せた後、静かな声で答えた。

「確かに、あなたの言うことも理解できるわ。

新しい服やバッグで満足感を得たり、気分転換になることは確かにある。

でも、そこで止まってしまうと、次に進むための資金が減るだけなの。」

マヤの声は少し苛立ちを帯びてきた。

「でも、じゃあ、いつまでも我慢し続けて、お金をただただ増やすだけの人生って、楽しいんですか?」

先生は穏やかな表情を保ちながら答えた。

「お金を増やすことが目的ではなく、自由を得るための手段なの。

例えば、将来大きな病気をしても治療費を心配しなくて済むとか、働けなくなっても生活に困らないとか、やりたいことをやるための時間と自由を得るためにね。」

マヤは視線をそらしながら呟いた。

「でも、それなら服やバッグを買うのも、その一つの『自由』じゃないですか?」

先生は微笑みを浮かべながら答えた。

「確かにそうね。でも、その小さな自由のために、将来の大きな自由を犠牲にしてしまうのはもったいないと思わない?」

マヤはため息をついた。

「なんだか、お金持ちの考え方って、私には遠い世界の話に感じます…。

結局、私たちには無理な話なんですよ。」

先生は少し眉をひそめて言った。

「そうかしら。もしかすると、あなたが現実から目を背けているだけかもしれないわよ」

マヤはその言葉に引っかかりを覚えた。

「現実から目を背けている…ですか?」

先生は冷静な口調で続けた。

「ええ。自分に都合のいいことだけを見ていては、進歩はないわ。」

マヤは感情を抑えきれずに言った。

「先生、もういいです! 先生みたいなお金持ちには、どうせわからない話ですよ!」

先生は表情を変えずに答えた。

「私の教えがあなたに役立たないのなら、もう来なくて結構。」

マヤは悔しさと悲しさでいっぱいになりながら叫んだ。

「そうしますよ! もう二度と来ませんから!
マヤの声が怒りに震えた。彼女はさらに畳みかけるように叫んだ。

「先生の守銭奴!いけず!外面如菩薩内心如夜叉!!」
そう言うと、勢いよくドアをバタンと閉め、足音を荒げて去っていった。

静かな部屋に、マヤの捨て台詞がこだまのように残る。

先生はしばらくその場に立ち尽くし、苛立ちを覚えた顔で小さくため息をついた。


「守銭奴ですって…。あの子ったら、まったく…。ん?げめんにょぼさつ、ないしんにょやしゃ…???」

***

夕暮れの公園。冷たい風が吹く中、マヤはベンチに座っていた。足元には落ち葉が散らばり、空は茜色に染まっている。

「…はぁ、どうして私はあんなに怒ったんだろう。先生が言ったこと、そんなに間違ってたかな?」

マヤは自分の感情を振り返り、静かに考え始めた。

「そういえば、私が先生のところに通い始めたのって、お金に関する悩みがきっかけだったんだ。」

彼女は当時の自分を思い出した。

数ヶ月前、友人のアユミが心配そうに声をかけてきた。

「マヤ、最近元気ないけど、どうしたの?」

マヤはため息をついて答えた。

「お金のことで悩んでて…。

パワーストーンや風水にも頼ってみたんだけど、全然効果がなくて。」

アユミは少し考えてから提案した。

「それなら、一度私の知り合いのタロット占い師の先生に相談してみたら?

すごく当たるって評判なんだけど、ちょっと変わった人でね。」

マヤは興味を引かれて、その先生のもとを訪れることにした。

静かな空間にタロットカードが並べられ、独特の雰囲気が漂っている。

先生は穏やかな笑みで迎えてくれた。

「はじめまして、マヤさんね。

今日はどのようなご相談かしら?」

マヤは深呼吸をしてから話し始めた。

「実は、お金を引き寄せる方法を知りたくて…。

いろいろ試したんですが、うまくいかなくて。」

先生は頷きながらタロットカードをシャッフルし始めた。

「なるほどね。では、タロットカードに尋ねてみましょう。」

先生は一枚のカードを引き、テーブルの上にそっと置いた。

「これは『教皇』のカードね。伝統や知識、学びを象徴しているわ。」

マヤはカードを見つめながら尋ねた。

「それはどういう意味ですか?」

先生は微笑んで答えた。

「あなたが金運を上げたいと言うのなら、まずは正しい知識を身につけることが大切ね。

『教皇』は新しい学びや師弟関係を示しているわ。」

マヤは戸惑いながらも質問した。

「お金を引き寄せるためには、どうすればいいんでしょうか?」

先生は静かな目でマヤを見つめ、穏やかな口調で答えた。

「あなたは、本当のお金の向き合い方を知らないのね。」

「え?」

「お金は汚いものでも、魔法の道具でもないわ。

お金は自由への道を歩むためのツールに過ぎないの。

大切なのは、どう使うか、どう増やすかを理解することよ。」

その言葉に、マヤはハッとさせられた。

「どう使うか、どう増やすか…ですか?」

先生はさらに続けた。

「ええ。楽してお金を手に入れようとするよりも、自分自身の力でお金を生み出す方法を学ぶべきよ。

例えば、資産運用や副業について勉強してみるのはどうかしら?」

マヤは意外なアドバイスに驚いた。

「でも、そんな難しいこと、私にできるでしょうか…。」

先生は穏やかな声で励ました。

「『教皇』のカードが出ている今、学びを始めるのに最適な時期よ。

信頼できる情報源や師を見つけて、基礎から学んでみなさい。」

マヤはその言葉に背中を押される思いだった。

「わかりました。挑戦してみます!」

マヤは現在に意識を戻した。

「あのとき先生に言われたことが、私の新しい一歩になったんだ。」

それから彼女は、本を読んだり、セミナーに参加したりして、お金に関する知識を深めていった。

先生の元を何度も訪れ、アドバイスをもらいながら少しずつ成長していった。

「でも、私、いつの間にか先生の言葉を押し付けられているように感じてしまったのかもしれない。」

マヤは深く息を吐いた。

「先生は私のためを思って言ってくれていたのに…。私、何を怒っていたんだろう。」

***

翌日、マヤはおやつを持参して、意を決して先生のもとを訪れた。

ドアをノックすると、先生は少し驚いた様子で迎えてくれた。

「先生、昨日は本当にごめんなさい。感情的になっちゃって…お詫びにこれを持ってきました。」

マヤは恥ずかしそうに頭を下げながら、おやつの包みを差し出した。

先生がそれを受け取り包みを開けると、中に入っていたのは「切腹もなか」だった。

一瞬の静寂が訪れた後、先生はもなかをじっと見つめ、次にマヤを見上げた。

「うむ、面をあげい、マヤ殿!その誠意、しかと伝わったぞ!」

マヤは思わず目を丸くし、驚いた表情で先生を見上げた。しかし、先生の芝居がかった言い方に、次第にクスッと笑いがこみ上げてきた。

先生もその表情を見て、穏やかに笑みを浮かべた。

和やかな空気が二人の間に流れ、緊張感はすっかり消えていた。

「まあ、あんなふうに怒るのもたまにはいいものよ。

でも、どうしてあんなに怒ったのかしら?」と尋ねた。

マヤは視線を下げたまま答えた。

「先生のおっしゃっていた事が正論すぎたというか…。

私、受け止められなくて。

考えを押し付けられたように感じてしまって…。

それが少し辛かったんです。」

先生は軽く息を吐いた。

「そうだったのね。

私も配慮が足りなかったかもしれないわ。

ごめんなさい。」

その時、先生が机に置いたカードに目が留まった。そこには【教皇の逆位置】が描かれている。

「先生、これ…教皇の逆位置ですね。」

先生はカードを見つめながら答えた。

「そうよ。『教皇』は教育や導き、知恵を象徴するカード。

逆位置になると、『狭量な考え方』や『権威への反発』を意味するの。

お互いに少し意固地になっていたのかもしれないわね。」

マヤは顔を上げ、穏やかな表情で言った。

「先生、私もわかってきました。

お金を増やすだけじゃなくて、自分の考え方や価値観を見直すことが大切なんですね。」

先生は優しく微笑んだ。

「その通りよ。お金を持っているかどうかではなく、どう使うかがあなたの未来を形作るの。

自分にとって何が本当に大切かを見極めていけばいいわ。」

マヤは力強く頷いた。

「はい、これからはもっと考えて行動します。

先生、これからもご指導よろしくお願いします。」

先生も微笑んで答えた。

「もちろんよ、マヤ。一緒に成長していきましょう。」

二人は和やかな空気の中、新たな一歩を踏み出した。

窓の外では、朝の光が優しく差し込み、未来への希望を照らしているようだった。

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