恋人たち〜散財か貯蓄か、選択の先にある未来編〜

タロットカード「恋人たち」
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夕暮れ時、マヤと先生は街の喧騒から少し離れた老舗のお好み焼き屋に足を運んだ。

店内は木の温もりが感じられる落ち着いた雰囲気で、鉄板の上で焼けるお好み焼きの香ばしい匂いが二人を迎え入れた。

壁には昭和の懐かしいポスターが貼られ、どこか懐かしい気持ちにさせる。

マヤはメニューを眺めながら目を輝かせた。

「先生、今日はこの『究極!スーパー全部載せアルティメットお好み焼き(2,160円)』を頼みましょう!

いか、たこ、明太子、もち、チーズ、黒豚、とろろ、牛スジ、焼きそばが全部載ってんですって。」

先生は驚いた表情でマヤを見つめた。

「…私は普通の豚たま(980円)にするわ。」

マヤは身を乗り出して先生に訴えた。

「先生、今日はせっかく美味しいお好み焼き屋さんに来たんですから、最大限楽しみましょうよ〜。

普通の味じゃもったいないです!」

先生は少し眉をひそめ、

「あなた、最近金銭感覚がおかしくなってない?」と問いかけた。

「さっきの喫茶店でも、

『初めての店だから、この店の一番高いものを頼みます!』

とか言って、一番高いスイーツの盛り合わせとコーヒーを頼んでいたわね。」

マヤは少し照れくさそうに笑った。

「そうですけど…。でも、せっかくなので、一番良いものを頼みたいんです! 

もったいないですよ。

もしかしたら店が潰れちゃって、もう二度と来れなくなっちゃうかもしれないじゃないですか。

思い出はプライスレスですよ。」

先生は小さくため息をつきながら、

「なるほどね」

と言い、バッグから一枚のカードを取り出した。

「…今のあなたの状態を表しているのはこのカード、【恋人】のカードかしらね。」

マヤは目を丸くして先生を見た。

「こ、恋人? 私、恋人はいませんけど。」

先生は微笑みながら首を振った。

「タロットカードの恋人は、何も恋愛のことだけを指しているわけではないのよ。

正位置は【満ち足りた状態】【快楽】【調和の取れた状態】、逆位置は【誘惑や無計画、優柔不断】を意味しているの。

あなたの『今を楽しみたい』『楽しさを取りこぼしたくない』という気持ちは完全に悪いものではないわ。」

マヤは納得したように頷いた。

「そうですよね? 実はこの間、先生からお借りした『DIE WITH ZERO(ゼロで死ね)』という本を読んで、影響を受けた気がします。」

先生は思い出したように頷いた。

「死ぬ時に最大限お金を持っていてもしょうがないから、使うべき時を誤るな、という本ね。

でも、あなたの今の貯金は大丈夫なの?」

マヤは視線を落として小さく答えた。

「実は、毎月の給料からお金が余らないので貯金ができてないんです。

あった分だけ使ってしまって…」

先生は優しく頷きながら、

「なるほどね。

それなら、貯金額だけ先に決めて、余った金額で楽しみのために使いなさい。

個人的には、貯金よりも毎月定額で積立投資をおすすめしたいけど。

でも、今のあなたにはまず、何があっても生きていられるように、3ヶ月分〜6ヶ月分の給与分の貯金(生活防衛資金)を確保するのが先決ね。」

マヤは真剣な表情で答えた。

「わかりました! 今度のボーナスは絶対手をつけないことにして、貯金は月2万円を目標にやってみます。

…でも、そうすると先生とこうやって外食する機会が減っちゃいそうです。」

先生は微笑んで言った。

「外食しなくたっていいじゃない。

私、事務所でのんびりあなたと話すだけで楽しいわよ。

お茶とお菓子くらいなら出してあげるわ。」

マヤの目には感謝の涙が浮かんだ。

「先生…! ありがとうございます! 

今日のお好み焼き、普通の豚たまにします。

そのかわり無料の青のりと鰹節とマヨネーズをたくさんかけて、特別感を出します!

これで見た目も豪華になるし、風味も増してお得感満載です!」

先生は笑いながら、

「美味しく食べられる範囲にしときなさい…」と優しく注意した。

注文を終えた二人は、鉄板の上で焼けるお好み焼きを眺めながら、ほのぼのとした会話を続けた。

※※※※

食事を終え、お店を出ると、夜の帳が下り始めていた。

店先の提灯が温かな光を放ち、夜風が心地よく二人の頬をなでる。

「今日はありがとう、先生。とても楽しかったです。」

マヤは微笑みながら先生に言った。

「こちらこそ、マヤ。お互いに有意義な時間を過ごせたわね。」

先生は優しく答えた。

「それじゃあ、私はこっちだから。またね。」

「はい、またお会いしましょう!」

二人は別れ、それぞれの道を歩き始めた。

マヤは心の中で今日の会話を振り返りながら、駅へと向かって歩いていく。

道すがら、ふと目に入ったのはコンビニエンスストアの明るいネオンだった。店先には新作のスイーツが美味しそうにディスプレイされている。

「期間限定の抹茶パフェ…美味しそう。」

マヤは足を止め、ガラス越しにスイーツを見つめた。

甘いものには目がない彼女にとって、この誘惑はなかなか強力だった。

「でも、さっきお好み焼きを食べたばかりだし…」

そう自分に言い聞かせながらも、手は財布に伸びそうになる。

「思い出はプライスレス…

でも、今は貯金を頑張る時期だよね。」

先生の言葉が頭をよぎる。

「貯金額を先に決めて、余ったお金で楽しむ…」

マヤは深呼吸をして、財布から手を離した。

「よし、今日は我慢しよう。

その代わり、家に帰ったらハーブティーでも飲んでリラックスしよう!」

空を見上げると、一番星が輝き始めている。

「これで、目標に一歩近づけた気がする。」

マヤは軽やかな足取りで家路を急いだ。


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