死神〜終わりは新しい始まり。資産運用で自由を手にする編〜

タロットカード「死神」
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夕暮れが迫る部屋で、私は古びたタロットカードを一枚ずつ手に取りながら、深い思い出に浸っていた。

窓の外にはオレンジ色の光が差し込み、部屋全体が柔らかな陰影に包まれている。

特に、死神のカード――暗い背景に鎌を持つ骸骨の姿は、私の胸の奥底にある痛みと変化を象徴しているようだった。

カードの背後には沈みゆく太陽と、再生を意味する白い花が描かれている。

まるで過去の自分の人生そのものを映し出しているかのようだ。

私の家族は、家というものに強く執着していた。両親が苦労の末に手に入れたその家は、白い壁に赤い屋根の二階建て。玄関には手入れの行き届いた花壇があり、春にはチューリップやパンジーが色とりどりに咲き誇っていた。広い庭にはリンゴの木が一本立ち、夏にはたくさんの実をつけて家族で収穫を楽しんだ。リビングルームの大きな窓からは、四季折々の景色が一望でき、その風景は私たち家族の誇りだった。

しかし、次第に家の手入れは行き届かなくなっていった。壁の塗装は剥がれ、庭の花壇には雑草が生い茂り、リンゴの木も実をつけなくなった。家の中も暗く、重苦しい空気が漂うようになった。

母は次第に心を病んでしまった。以前は明るく、笑顔の絶えない人だったのに、ある日を境に表情を失い、目には深い陰りが差すようになった。朝起きることができず、ベッドから出られない日々が続いた。夜になると、母の部屋からすすり泣きや独り言が聞こえるようになった。

ある晩、母がリビングルームで父に怒りをぶつけているのを目撃した。

「あなたのせいで、私はこんなに苦しんでいるのよ!」

その言葉に父は何も言えず、ただ肩を落としていた。私は怖くなって自分の部屋に逃げ込んだ。

さらに、母はパワーストーンや風水に頼るようになった。部屋中に水晶やお守りが増えていき、風水の本が山積みになっていた。彼女はそれらにすがることで、不安を紛らわせようとしていたのだ。

しかし、それでも心の平穏を取り戻すことはできず、母の状態は悪化していった。彼女の姿を見るたびに、胸が締め付けられる思いだった。

彼らの姿を見ているうちに、私は家族を守るために自分を犠牲にすることが当然だと思い込むようになった。大学進学の時期が近づいたとき、本当は心理学を学びたいと思っていた。しかし、私立大学は高額で家計に負担をかけるため、地元の国立大学に進学することを選んだ。

在学中はアルバイト代と奨学金で、家賃と生活費と学費を賄った。深夜までのアルバイトと授業の両立は厳しく、体力的にも精神的にも限界だった。友人たちが楽しそうにサークル活動や旅行の計画を立てているのを横目に、私は一人図書館で勉強する日々を送った。

「これでいいのだろうか…。自分の人生はこれでいいのか…?」

心の中で何度も問いかけたが、家族のためだと自分に言い聞かせていた。しかし、自分の夢や希望を抑え込んでいることへの葛藤は消えることはなかった。

大学を卒業し、家を離れて働き始めてから、私の価値観は大きく変わった。都会の喧騒の中で、自分の時間を取り戻し、自由を感じることができた。ある日、同僚が「投資を始めてから、毎月少しずつ増えていくお金を見るのが楽しみになった」と話しているのを耳にした。その時、私は思ったのだ。お金をただ稼ぐだけではなく、それをどう育てるかが未来の自由に繋がるのだと。

だから私は、資産運用について必死に学び始めた。書店で本を買い漁り、セミナーにも参加した。知識を深めるごとに、新しい世界が広がっていくのを感じた。そして、両親に提案したのだ。

「家を売って賃貸に住み、資産運用をして豊かな老後を過ごしたらどうですか?」

その提案が招いたのは、思ってもみなかったほどの激しい反発だった。両親にとって、家は長年の努力と犠牲の象徴であり、手放すことなど到底受け入れられなかったのだ。

特に父が激昂した。彼が幼い頃、祖父が株取引に失敗し、借金取りが家に押しかけてくる生活を強いられた記憶があるからだ。ドアを強く叩かれる音がするたびに、小さな父は布団を頭からかぶり、震えて眠れぬ夜を過ごしたという。そんな経験から、株や資産運用には強い抵抗を持ち、どんな状況であっても地道に働くことだけが家族を守る唯一の道だと信じていたのだ。

温厚だったはずの父は、怒りで顔を真っ赤にして、こう言った。

「俺たちの人生の全てを注ぎ込んだ家なんだ。それを売るなんて言うのは、俺たちの人生を否定するようなものだ!」

父の言葉に、私は何も言えなかった。自分の提案が彼らにとってどれだけ残酷なものだったのか、初めて気づいたのだ。私が正しいと思っていた提案も、彼らにはただの冷たい言葉に過ぎなかった。その日、私は両親との関係を断ち切ることを決意した。苦しかったが、それが私の「終わり」と「新しい始まり」だった。

その後、私は独りで新たな生活を築き上げた。お金の知識を深め、失敗から学び続けた。そこで私は気づいた。どれだけ正しい提案をしても、それを受け入れる準備ができていない人には響かないこともあると。

どうすれば、人々がもっと自然にお金の知識を受け入れてくれるのか…。その答えを見つけたのは、偶然のひらめきだった。かつて私にとっては単なる趣味だったタロットカード占いを使えば、人々はもっと防衛心を持たずに耳を傾けてくれるかもしれない。

そんなある日、友人の紹介でマヤという若い女性が私のもとを訪れた。

「はじめまして、マヤと申します。友人から先生のことを聞いて、ぜひお話を伺いたいと思って…」

マヤは明るい笑顔で自己紹介したが、その瞳の奥には不安が垣間見えた。

「いらっしゃい、どうぞおかけになって。」

彼女がソファに腰を下ろすと、私は暖かいハーブティーを差し出した。

「今日はどのようなご相談かしら?」

マヤはカップを手に取りながら、小さな声で話し始めた。

「実は、最近お金のことで悩んでいて…。将来のために貯金をしたいのですが、なかなかうまくいかなくて。それで、パワーストーンや風水も試してみたんですけど、効果が感じられなくて…」

その言葉を聞いた瞬間、母がパワーストーンや風水に頼るようになった姿が脳裏に蘇った。お金や不安から逃れようと、目に見えない力にすがる母の姿。その時の無力感と悲しみが胸を締め付けた。

「そうだったのね…。大変だったわね。」

私はできるだけ優しく声をかけた。

「でも、もしかしたら他にも方法があるかもしれないわ。一緒に考えてみましょう。」

マヤは少し安心したように微笑んだ。

「先生、私に何ができるでしょうか?」

現在に戻って。

ドアが軽やかにノックされる音がして、私は現実に引き戻された。マヤが明るい笑顔で入ってくるのが見える。彼女は以前よりも自信に満ちた表情をしていた。

「先生! この間教えてもらった全世界株式インデックス投資の毎月積立、早速始めましたよ!」

私はその言葉に驚き、顔を上げる。マヤの目には、真剣な決意が宿っているように見えた。

「本当に? すぐに行動に移すなんて、すごいわね、マヤ。」

「最初は怖かったけれど、先生の言葉を信じて一歩踏み出してみようと思ったんです。やってみないと何も変わらないですから!」

彼女のその言葉に、私は胸が熱くなった。彼女のような生徒との出会いが、私の心に再び希望を灯してくれる。死神のカードを見つめながら、私はそのカードに描かれた「古いものを手放し、新しい始まりを迎えるための勇気」を思い起こした。

「ありがとう、マヤ。あなたのおかげで、私もまた新しい気持ちで前に進めそうだわ。」

マヤは嬉しそうに笑い、私の隣に腰を下ろした。

「こちらこそ、先生。これからもいろいろ教えてくださいね!」

マヤの行動に触発されて、私も何か新しいことを始めたくなっていた。タロットカードを手に取りながら、これからの自分に何ができるかを考える。オンラインでの講座を開き、占いを通じて人々に正しいお金の知識を伝えるだけでなく、直接的な教育も提供する。そうすれば、もっと多くの人々に、自分の未来を切り開く力を与えられるのではないか。

「マヤ、実は私も新しいことを始めようと思っているの。お金の知識をもっと多くの人に伝えるために、オンラインでの講座を考えているんだけど、どうかしら?」

「それは素敵ですね! 私も絶対参加したいです!」と、マヤは目を輝かせて言う。

「ええ、もちろん。私たちはいつでも学び続けることができる。そして、その学びが、あなたをもっと自由にしてくれるわ。」

マヤが笑顔で頷くのを見て、私は確信した。死神のカードは、終わりではなく、新しい始まりへの一歩を象徴しているのだと。

窓の外を見ると、夕焼けの空に一番星が輝いていた。私は深呼吸をし、新たな一歩を踏み出す決意を胸に抱いた。

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