寒風が窓を叩く冬の午後、マヤはリビングのソファに深く腰を沈めていた。厚手のカーテン越しに微かに聞こえる風の音が、外の冷たさを物語っている。部屋の中は暖房の暖かさに満ちているものの、マヤの心はどこか落ち着かない。
パソコンの画面には、参加しているオンラインサロンの掲示板が映し出されている。投資家たちの熱い議論が絶え間なく流れ、スクロールするたびに新たな書き込みが増えていく。
「オルカンやS&P500インデックス投資の積立こそ、安定の道! これを20年続ければ、どんな不況が来ても2倍、3倍は当たり前! ローリスクで確実に資産を増やせる唯一の方法だ!」
その書き込みを目にしたマヤは、思わず微笑んだ。
「そうか、やっぱり私のやり方が正しいんだ! オルカンで積み立てを続ければ、長期的に見て確実に増えるし、何よりリスク分散が効いてるもんね!」
彼女は満足げにコーヒーを一口飲んだ。香ばしい香りが鼻腔をくすぐり、心がほっと安らぐ。しかし、その下には別の書き込みが続いていた。
「いやいや、インデックス投資なんてじれったい! 20年も待ってられるか? 高配当株なら毎月安定した配当金がもらえる! 年間利回り5%、10%なんてザラ。働かなくても月々の生活費がすぐに賄えるようになるんだぞ!」
マヤの心は揺れた。
「なるほど、確かに…毎月の生活費が配当金で賄えるって考えると、自由度が全然違う! 何もせずにお金が増えるなんて最高かも!」
さらに画面をスクロールすると、次の書き込みが目に飛び込んできた。
「高配当投資? それって結局、税金で利益を食い尽くされるだけだろ! 非効率極まりない。今は仮想通貨が熱い! 1年で資産が10倍、20倍なんて普通だ。リスクを取らない奴は一生後悔する!」
「えっ、1年で10倍!? すごい! そんなに早く資産が増えるなら、ちょっと試してみる価値はあるかも…」
マヤの胸は高鳴った。しかし、さらに別の意見が彼女を現実に引き戻した。
「仮想通貨なんてただのバブル! 価格変動が激しくて、全財産を失うリスクもある。そんなギャンブルに手を出すなんて愚か者のすること! リスクヘッジの効いた個別株で、一発逆転を狙え!」
「そっか、仮想通貨は確かに怖いかも…でも、個別株ならうまく選べば大きな利益が見込めるし…!」
マヤはさらに考え込む。しかし、その後も過激な意見が次々と投稿されていた。
「個別株? 運が良ければね。でも現実は違う。90%以上の個人投資家は市場に負けてる。アセットアロケーションでリスクを完全にコントロールすれば、どんな相場でも勝ち続けられる!」
「なるほど、アセットアロケーションなら安全に投資ができる…でも、それって結局また手堅いだけなんじゃ…?」
マヤの頭は完全に混乱していた。何が本当に正しいのか、すっかり見えなくなってしまったのだ。パソコンを閉じ、深いため息をつく。
そのとき、ふとひときわ冷静な書き込みが目に留まった。
「投資は慎重に、節度を持って」
そのシンプルな言葉に、マヤは心を落ち着かせた。先生の穏やかな笑顔が頭に浮かぶ。
「そうだ、先生に相談してみよう…」
コートを羽織り、マフラーを首に巻き付けると、マヤは冷たい風に身を縮めながら先生のオフィスへと向かった。
暖かな照明に包まれた先生のオフィスは、まるで別世界のようだった。壁には美しい絵画が飾られ、棚には色とりどりのタロットカードやクリスタルが並んでいる。アロマの柔らかな香りが漂い、心を落ち着かせる音楽が静かに流れていた。
「先生、もう一体どうすればいいのか分からないんです!」
オフィスに入るなり、マヤは焦った様子で声を上げた。先生は驚いたように目を見開きながらも、微笑みを浮かべてマヤを迎えた。
「どうしたの、マヤ? そんなに慌てて」
「オルカンの積立をしているけど、高配当株がいいって言われたり、仮想通貨のほうがいいって言われたり…! どの投資方法が正解なんですか?! もう頭が混乱して…」
マヤは先生の机に詰め寄るように問い詰める。先生は静かに頷き、対面の椅子を指差した。
「まずは落ち着いて、座りましょうか」
マヤは深呼吸をし、椅子に腰を下ろした。先生はタロットカードのデッキを手に取り、ゆっくりとシャッフルし始めた。そして、一枚のカードを引いてマヤに見せた。それは「節制」のカードだった。カードには白い翼を持つ天使が描かれ、二つの杯から水を注ぎ合わせている。背後には穏やかな川と山々が広がり、日の出が新たな始まりを象徴していた。
「節制…?」
マヤは首をかしげる。
先生はカードを指差しながら説明する。
「投資方法に唯一の正解なんてないのよ。年齢、リスク許容度、運用できる資金…すべての人の状況によって、取るべき投資の選択肢は変わってくるわ。この天使が二つの杯の間で水を行き来させて調和を保っているように、バランスが大切なの」
マヤは少し考え込んでから、「え? どういうことですか?」と尋ねる。
先生は優しく微笑んで答えた。
「いろいろな投資方法のいいところを少しずつ取り入れて、バランスを取ることが大切なのよ。例えば、あなたがやっているオルカンの積立を続けながら、少しだけ他の投資も取り入れてみるのはどうかしら?」
マヤの表情が明るくなった。
「具体的には、どうすればいいんでしょうか?」
先生は微笑みながら提案を始めた。
「まず、高配当株を少し取り入れてみるのはどうかしら。オルカンやS&P500のインデックス投資を続けながら、全体の10〜20%を高配当株に回すことで、安定したキャッシュフローも得られるわ。配当金を得ながら、長期的な資産の成長も期待できるの」
マヤは頷きながら、「なるほど、少しだけ高配当株を持っておけば、配当金で美味しいコーヒーを毎月楽しむとかできるかも!」と笑顔を見せた。
「次に、仮想通貨についてだけれど、確かにリスクは高いわ。でも、最近はクレジットカードのポイントを使ってビットコインに交換し、少額を運用するという方法もあるわよ。これなら、実際のお金を大きくリスクにさらさずに、仮想通貨の動きを学べるの」
「それは面白いですね! それなら、リスクを取りすぎずにビットコインに少し触れることができるかも…」
マヤは新しいアイデアに目を輝かせた。
「個別株も、全体の10%以下を少額で投資する範囲なら、楽しみながらできるわ。あなたの好きなブランドや応援したい企業に投資して、その成長を楽しむのも良いかもしれないわ」
「それなら私の好きなカフェチェーンやテクノロジー企業に少しだけ投資してみたいかも! リスクは少ないし、楽しみも増えますね!」
「そして、アセットアロケーションでリスク管理をするのもいいわね。オルカンをメインにしつつ、債券やリートも全体の10〜15%程度加えることで、株式市場の下落リスクを和らげることができるわ」
「確かに、それなら全体的なリスクを少しだけ減らせそうです!」
マヤは納得したように頷いた。
先生は穏やかな目でマヤを見つめた。
「大切なのは、自分に合ったバランスを見つけることよ。この『節制』のカードが示すように、過度に偏らず、調和を保つことが重要なの」
マヤはほっとした表情で微笑んだ。
「ありがとうございます、先生! これなら情報の洪水に溺れることなく、自分のスタイルを持って投資を続けられそうです!」
オフィスを出る頃、外はすっかり暗くなり、冷たい風が頬を刺す。星がきらめく夜空の下、マヤはマフラーを巻き直しながら、ふと立ち止まった。
「でも、先生。FXも少しだけならありかも…な〜んて…」
その言葉を口にした瞬間、背後から迫力ある声が響いた。
「FXだけは、ぜーーーったいにやめなさいよーーー!!!」
振り向くと、先生が鬼のような形相で立っていた。背後にはまるで炎のオーラが立ち上っているようだ。目は鋭く光り、その迫力は尋常ではなかった。
「もしやったら出禁よ、出禁!!!」
その迫力にマヤは思わず後ずさりした。
「せ、先生! 先生の後ろに鬼が見えます!!!先生ーー!!!(※先生がなぜFXを嫌ってるのかは『愚者』のカードの物語を参照)」と、ほとんど泣きそうな声で叫んだ。
すると先生はふっと笑みを浮かべ、いつもの穏やかな表情に戻った。
「分かってくれればいいのよ、マヤ。バランスを取るのが投資の基本。余計な冒険はしないことね」
マヤは青ざめた顔で何度も頷きながら、「はい、はい! もうFXの話はしません! 絶対に!」と、まるで命がけの約束をするかのように答えた。
冷たい風が二人の間を通り抜け、遠くで街の明かりが輝いている。
「気をつけて帰るのよ。また何かあったら相談に来てちょうだい」
「はい、先生。本当にありがとうございました!」
こうして、マヤは先生の恐ろしいまでのFX嫌いを目の当たりにし、より堅実な投資の道を進むことに決めたのだった。
彼女は心の中で、『節制』のカードに描かれた天使の穏やかな表情を思い浮かべながら、家路についた。

宅地建物取引士(宅建)、証券外務員一種、ファイナンシャルプランナー(FP)2級、簿記検定に合格し、17年以上にわたる資産運用の経験を持つ。
資産運用の経験を通じて、リーマンショックで一時的に資産を半減させるも、その後着実に資産を回復・増加させ、現在は運用資産を1000万円以上増加させた。
国内外の個別株、投資信託、ETF、国内外の債権、仮想通貨、クラウドファンディングなど、多岐にわたる投資商品を扱い、リスクを分散しながら安定した成果を上げている。
投資に加えて、複数の副業を通じて収益を得ており、読者にとって参考になる情報を提供する予定。