太陽〜頑張っても成果が出ない時期を乗り越える編〜

タロットカード「太陽」
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重たい雲が空を覆い尽くし、先生の部屋の窓からは薄暗い光だけが差し込んでいた。古い木製の窓枠に風が吹きつけるたび、木の枝が窓ガラスにかすかに打ち付けられる。そのたびに、先生の心も小さく揺れた。彼女は手にしたタロットカードをゆっくりとシャッフルしながら、遠くの灰色の空を眺めていた。

外の景色は灰色に染まり、街並みはまるで色を失ったかのようだ。何かが起こりそうな、あるいはすでに起こっているかのような、不安定な空気が部屋を包んでいた。机の上のキャンドルの炎が揺らめき、静寂の中で微かな明かりを放っている。

そのとき、ドアをノックする音が静寂を破った。先生はカードをシャッフルしていた手を止め、ドアの方に目を向ける。予感は当たっていた。

マヤがいつもの明るさを失った表情で入ってきた。肩を落とし、重たい足取りで部屋に入る彼女の様子は、普段とは全く違っていた。髪は少し乱れ、目の下には薄いクマができている。

「何があったの? いつも元気なあなたが、そんな顔をして……」

先生は心配そうにマヤの表情をじっと見つめた。重たい雲が垂れこめる外の景色と同じように、マヤの顔も曇っている。マヤは小さくため息をつき、疲れ切ったように椅子に座り込んだ。

「実は、最近副業で始めたブログが全然うまくいかなくて……。最初はアクセスが少しずつ増えてたんですけど、急に落ち込んじゃって。記事もたくさん書いたのに、全然反応がないし、広告収入もほとんどないんです。こんなに頑張ったのに、どうしてだろうって思っちゃって……」

マヤの声は震えていて、言葉に込められた挫折感が重く響いた。彼女の手は膝の上で握りしめられ、微かに震えている。先生は静かにうなずき、マヤの気持ちに寄り添うように、少し前のめりになって話を聞いた。

「なるほどね。頑張っても成果が見えない時期は、誰にでもあるわ」

先生は優しく微笑んで励ましの言葉を送ったが、マヤの肩はまだ重たそうに落ち込んでいる。部屋の外からは、風に揺れる木々のざわめきがかすかに聞こえる。

「それだけじゃないんです。周りの友達もみんな副業で成功してるように見えるんです。SNSではみんなキラキラした投稿ばかりで、自分だけが取り残されてる感じがして……。本当に自分はこのままでいいのか、わからないんです!」

マヤは目を閉じ、深く息を吐いた。窓から吹き込む冷たい風が、部屋の空気をさらに冷やす。彼女の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。先生はそんなマヤの苦しみを肌で感じ取り、そっと言葉を紡いだ。

「わかるわよ、マヤ……ここまであなたはよく頑張ってきたわ。副業は勉強と違って、頑張った分だけわかりやすく成果が出るものではないものね」

先生の言葉に、マヤの肩がほんの少しだけ緩むように見えた。しかし、その目にはまだ迷いと不安の色が残っている。

「でも、もうどうしたらいいのかわからなくて。やっぱり私には才能がないんじゃないかって、そんな風に思い始めてしまって……」

マヤの言葉が部屋の中に響いた。曇った空と同じように、彼女の心も晴れることを知らず、重く沈んでいるようだった。先生はマヤの気持ちを真摯に受け止めながら、次の言葉を慎重に選んだ。

「マヤ、それは誰でも感じることよ。特に、誰かの成功話を見ていると、自分がどれだけ頑張っているか見失いがちになるもの。でもね、SNSに上がっている成功話って、みんな自分の一番良い部分だけを見せているのよ。見えないところで、たくさん失敗している人も多いの」

先生はマヤの隣に寄り添うように座り、そっと彼女の肩に手を置いた。その手の温もりが、マヤの冷えた心にじんわりと染み渡る。マヤの目にはまだ不安の色が残っているが、少しずつ落ち着きを取り戻しているようだ。

「そうですよね……でも、やっぱり気になっちゃうんです」

マヤはため息をつきながら言った。彼女の視線は窓の外へ向かい、曇った空と揺れる木々をぼんやりと見つめている。遠くでカラスの鳴き声が聞こえ、どこか寂しげな雰囲気が漂っていた。

「それなら、少し立ち止まって、これまでの成果を振り返ってみましょうか? マヤ、最初の一歩から比べたら、どれだけ進んだか、どれだけ学んだか、きっと見えてくるものがあるはずよ」

先生の言葉に、マヤは少し考えてからうなずいた。自分の手元を見つめながら、これまでの努力を思い返すように、小さくつぶやく。

「確かに、最初の頃と比べると、少しは成長した気もします」

「そうよ、あなたはたくさん成長しているわ。小さな成功体験を積むことで、自信はどんどん積み重なっていく。まずは、自分のペースでできることを続けてみましょう」

マヤの目には少し光が戻ったように見えたが、それでもまだ完全に晴れたわけではない。先生は、その微妙な変化を見逃さなかった。マヤの内に潜む不安は、もっと深いところに根ざしているようだ。

(このままでは、マヤの不安は消えないわね……もっと彼女の心を解放させるためには……)

先生は心の中でそう考え、決心した。

「よし、じゃあ、少し運命に委ねてみましょうか。タロットカードが私たちに何を伝えようとしているのか、見てみましょう」

「お願いしますお願いします! ここで死神とか出たらもう頑張れないです、お願いしますお願いします!」

マヤは瞳をぎゅっと閉じ、手を組んで縋るように祈る。彼女の声には、必死さと一縷の望みが入り混じっていた。先生は微笑みながら、カードを丁寧にシャッフルし始めた。カードが擦れ合う音が、部屋の静けさの中にリズミカルに響き渡る。

部屋の空気がピリリと張り詰め、風の音さえも遠のいていくような感覚。先生はカードに指先の感覚を集中させながら、心の中で静かに祈った。

(お願い、カードたちよ。マヤの道を照らす光を見せてちょうだい……)

シャッフルが止まり、先生は一枚のカードをゆっくりと引き抜いた。その瞬間、重たい雲に覆われていた空が、ふと明るさを取り戻しつつあった。マヤと先生が座る部屋にも、少しずつ光が差し込み始める。

先生がカードをテーブルの上にそっと置く。出てきたのは、【太陽】のカードだった。輝く太陽と無邪気に笑う子供が描かれている。

先生はカードを見て微笑んだ。そして、ゆっくりとマヤの方に顔を向ける。

「このカードは正位置の【太陽】。正位置では『成功や喜び、成長、ポジティブなエネルギー』を意味するわ。逆位置だと、『一時的な停滞や自己中心的な行動』を象徴するの」

マヤはカードをじっと見つめ、その絵柄に心を奪われた。鮮やかな太陽の光が、まるで彼女自身を包み込むように感じられる。心の中に小さな光が灯り、徐々にその光が広がっていくようだった。

「私、めっちゃ勇気づけられました……!」

彼女の目が輝きを取り戻し、顔には自然な笑みが浮かんでいる。

「このカードを見ると、なんだか元気が湧いてきます! これまで自分に自信が持てなかったけれど、もしかしたら私もまた輝けるのかもしれない……って思えました。やっぱり、やるしかないですね!」

先生はマヤの言葉に深く頷き、柔らかく微笑んだ。

「そうよ。太陽のカードは、あなたにエネルギーと自信を与えてくれるわ。今は一時的に停滞しているかもしれないけど、その先には必ず明るい未来が待っている。だから、諦めないで進み続けてね」

マヤはその言葉を聞き、決意を新たにしたように深く頷いた。

「はい! カードの言葉を信じて、もう少し粘ってみることにします!」

先生は少し身を乗り出し、マヤの肩に軽く手を置いた。その目には優しさと信頼が込められている。

「それでいいわ。誰かと比べるのではなく、自分自身の成長に目を向けて。今までのあなたの努力は、絶対に無駄にはならないから」

マヤはその言葉を受け、心の中に温かいものが広がるのを感じた。感謝の気持ちでいっぱいになり、目を潤ませながら微笑んだ。

「ありがとうございます、先生。なんだか、もう一度頑張ろうって思えました」

先生はマヤの瞳の中に、かつて自分も感じていた不安と、そして再び立ち上がる強い意志を見つけた。彼女の中で生まれた新たな決意が、先生にも伝わってくる。

「私もあなたからたくさん勇気をもらったわ。お互いに、これからも成長していきましょう」

「はい! これからもよろしくお願いします!」

マヤは元気を取り戻し、明るい笑顔で立ち上がった。彼女が部屋を出て行くとき、外の空はすっかり晴れ渡り、暖かな陽光が差し込んでいた。

先生はその後ろ姿が見えなくなるまで静かに見送り、ふと窓の外を見上げた。厚い雲が流れ去り、青空の隙間から眩しい太陽が顔を出している。鳥たちが楽しげにさえずり、風は穏やかに木々を揺らしていた。

先生は一枚一枚のタロットカードを丁寧に束ね直し、優しく撫でるようにその上に手を置いた。

「ありがとう、カードたち。今日もまた、私たちを導いてくれて。また明日も、よろしくね」

タロットカードの感触が、手のひらに心地よく伝わる。カードたちがいつもそうしてきたように、今日もまた、静かに彼女の心に寄り添ってくれているようだった。

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